• 7月 7, 2025

お役所の片隅で

先日、所用でとある市役所の、障害福祉課というところへ足を運んだ。

待合の、少し固いベンチに腰を下ろして順番を待つともなく待っていると、隣の窓口の声が、どうしたって耳に入ってくる。 補聴器をつけたひとりの男性が、身を乗り出すようにして何かを訴えている。 耳が不自由ゆえの聴き取りづらい話し方である。 

その切羽詰まった響きは、いやでも耳に届く。「住まいが」「どうにも」という言葉の端々から、よほどのっぴきならない事情を抱えていることが知れた。

カウンターの向こうにいるのは、中年の男女の職員。ふたりとも、ただじっと、うなずきながら男性の顔を見つめている。 どうぞお話しください、というふうに、急かせるでもなく、否定するでもなく。 女性の指が、時折なにかを紡いでいるように動く。 手話を使える方でもあるのかと軽くおどろいた。

恐らくは、この職員たちの権限だけでは、どうにもならない話なのであろう。それでも、その相槌は、まるで合いの手のように、荒々しい男の言葉を、ひとつ、またひとつと、柔らかく受け止めている。

私の用事が済み、席を立つころ、隣の対話はまだ続いていた。けれど、最初のような堰を切った勢いは、もうない。男は、肩の力を抜き、ぽつり、ぽつりと、言葉を置くように話している。なにか話の筋道がついたのか、あるいは、ただ胸のうちを吐き出して、少しだけ気が楽になったのか。それは、わからない。

お役所仕事、なんて、つい口の悪いことを言ってしまう自分の癖を、少し恥じた。番号札を握りしめ、パタパタと数字の変わる電光掲示板を睨むように見つめる、いつもの私が見ているものとは、少し違う景色がそこにはあった。

彼らがしていたことは、もちろん実務作業には違いない。けれど、あの、ただ黙って相手の目を見て話を聞く姿は、まさしく「手当て」というものではなかったか。

乾いた手続きの間に、こんなにも温かな、人の心のやり取りがある。処方箋のいらない薬が、思わぬところにもあるものだと、私はなんだか不意打ちを食らったような気持ちで、その場を後にした。

今年も庭のびわは豊作でした。葉っぱに抱かれている赤ちゃんに似た実たち。

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